あかかべだいみょうじん
赤壁大明神


赤壁大明神 加古川に架かる加古川橋の東詰、そのすぐそばに春日神社の鎮守の森がある。
境内の片隅、少し木に隠れるようにして真っ赤な壁をした小祠がひとつ。丸亀神社が正式な社名らしいが、その出で立ちから「赤壁大明神」の名で親しまれている。
この小さなお社の壁が赤く塗られているのにはこんな伝説がある。

江戸時代の中頃の事、加古川宿に油絞りを生業とする徳蔵という男がいた。
この徳蔵、たいそうな博打好きであった。そんな徳蔵がいつものように船頭村(現 加古川市米田町船頭)の賭場に向かう途中のこと、徳蔵は一匹の猫を拾った。徳蔵は独り身の寂しさからこの猫を飼うことにし、「たま」と名付けて可愛がっていた。
ある日、いつものように徳蔵が博打に明け暮れていた時の事、一緒に懐に入れて連れて行っていた「たま」が壷の中のサイコロの目が“丁”(偶数)なら両目を閉じ(両目を開けたともいう)、“半”(奇数)なら片方の目を閉じるという仕草をする事を知り、博打好きの徳蔵はこの「たま」の力を借りて一儲けしようと考えた。
そう思うが早いか、早速町外れの辰五郎の家へと行き博打を始めた。
徳蔵はサイコロが振られる度に懐の「たま」の顔を覗きながら勝ち続け、結局、その場に居合わせた全員の持ち金八十両(現在の金額で約800万円相当)あまりを手にして大喜びで家路へとついた。
ところが、その時有り金全てを巻き上げられた吉松と吉蔵(吉松と良蔵とも)という兄弟は腹の虫が治まらず、また徳蔵の持っていた大金に目がくらみ、徳蔵の後をつけ、夜陰に乗じて徳蔵を刺し殺してしまった。そして、持っていた金を奪うと、死体を川へ捨ててしまった。
その翌日、徳蔵は変わり果てた姿で川の下流で発見された(川の土手で発見されたともいう)。亡骸は村の人々の手によって自宅へと運ばれた。
はたして、徳蔵の通夜がしめやかに行われていた時の事。徳蔵の可愛がっていた「たま」の声はすれども姿が見えない。しかも、どうやらその声は徳蔵の亡骸の中から聞こえてくるようである。
「たま」の声がする度に蝋燭の灯がゆらゆらとくゆれ、殊更薄気味悪さを醸し出していた。
そんなところに何食わぬ顔をして博打仲間の吉松兄弟が焼香にやってきた。
するとどうしたことか、風も無いのに徳蔵の亡骸に掛けていた着物が捲れ、ついには徳蔵の腕がかわるがわる上下に動き出したではないか。
「これは主人を殺された猫のタタリに違いない」
その場にいた皆が騒ぎ出し、ある者がこの事を名主に告げると、たまたま数日前から当地に逗留していた丸亀(香川県丸亀市)の吉岡儀左衛門という侍が槍を手に徳蔵の家に駆けつけた。
「化け猫め覚悟」とばかりに儀左衛門が槍を向けると、徳蔵の体から女童(めのわらわ=小さな女の子)程もあろうかという猫が飛び出した。
撫 猫 徳蔵の亡骸に乗り移っていたのは「たま」だった。
「たま」は表へ飛び出すとそのまま近所の長屋へと逃げ込んで行った。すかさず儀左衛門は「たま」の後を追いかける。そして、長屋の中を縦横無尽に飛び回る「たま」目掛け槍を繰り出した。
確かな手応えがあった。しかし…そこには槍で突き抜かれた二人の男が居た。そう、この長屋こそは吉松兄弟の長屋で、儀左衛門の槍にかかったのは通夜から戻った吉松兄弟だったのだ。しかし、その間も無く「たま」も仕留められてしまった。
さて、儀左衛門であるが、罪の無い二人を殺めてしまったとばかりに罪を悔い自らの腹を切って自決しようとしていた。その時、息も絶え絶えの吉松が、二人で徳蔵を殺して金を奪った事を白状したためそれを聞いていた村人達が儀左衛門の自決を押し止めた。
この時、「たま」の血で白かった壁は朱(あけ)に染まった。
人々は猫(たま)が主人の仇討ちをしたのだと、この猫の忠義の深さを称えると共に哀れみ、この猫を手厚く葬り、血に染まった壁とともに小祠を建立して祀った。
これが赤壁大明神の起こりだという。

この話は、後世『赤壁大明神の怪猫』という講談となり、その後も何度か映画化された(注1.)こともあり、広く知られるようになった。

社の前には、「招福 撫猫」と書かれた眠っている猫が浮き彫りにされた線香立てがある。なんでも、この猫を撫でるとご利益があるそうだ。
国道の喧騒の片隅で、今も「たま」は人々の心の中でしっかりと生き続けている。

赤壁大明神(丸亀神社) : 兵庫県加古川市加古川町592 春日神社境内 

注1. 赤壁大明神をテーマに制作された映画
・ 大正3年(1914)「赤壁大明神」天然色活動写真株式会社
・ 大正7年(1918)「赤壁明神」日活株式会社 京都撮影所
・ 大正9年(1920)「赤壁明神」國際活映株式會社 東京撮影所
・ 昭和13年(1938)「怪猫赤壁大明神」新興キネマ株式会社 京都撮影所

参考資料 : 橘川真一. 路傍の歴史再発見 ビジュアル・ブックス 3. 神戸新聞総合出版センター, 2001
播磨学研究所編. 播磨の民俗探訪. 神戸新聞総合出版センター, 2005
現地解説板

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